背景
急性膵炎は膵臓の急性の炎症性疾患であり、隣接する臓器や遠位の臓器に影響を及ぼすものであるとされています。急性膵炎の症状は突発的な上腹部痛(軽度の圧痛から反跳痛)とともに嘔吐、発熱、頻脈を伴います。
急性膵炎は大きく分けて2つに分類され、ひとつが間質性浮腫性膵炎、もうひとつが壊死性膵炎と呼ばれます。
間質性浮腫性膵炎は、びまん性または限局性に膵腫大がみられ、壊死を伴わないものとされています。この膵炎の場合は発症後1週間以内に症状は改善するとされています。
壊死性膵炎は、膵臓または膵臓周囲の組織に壊死を生じたものを指します。膵臓や膵周囲組織に壊死が存在する場合は、種々の合併症やインターベンション治療が必要となる確率が高いとされています。膵壊死組織への感染の有無が死亡率に関わっているため、感染性か非感染性かの鑑別の重要とされています。
原因
アルコールと胆石が成因の多くを占めます。男性ではアルコール性膵炎が多く、女性で胆石性膵炎が多いとされています。
アルコール性膵炎を明確に定義している報告はありませんが、その発生機序としてはOddi括約筋の痙攣や蛋白栓の沈殿による膵導管の閉塞などが考えられています。
胆石性膵炎はたんせきが原因で起こる膵炎を指しますが、胆石(胆泥)が総胆管・膵管を閉塞することで引き起こされます。このとき胆汁うっ滞のっ所見を認めることが多いです。
他にも、手術や処置後に発症する場合や、薬剤、膵臓の腫瘍性病変が原因となり急性膵炎を発症する場合もあります。
局所合併症
急性膵炎に伴い発生する膵周囲の貯留物(局所合併症)は、発症からの経過時間と形態によって4つに分類されています。
急性膵周囲液体貯留(acute peripancreatic fluid collection)
間質性浮腫性膵炎後4週間以内に膵周囲にみられる液体貯留。
急性壊死性貯留(acute necrotic collection)
壊死性膵炎後にみられ、液体成分と壊死物質を含んだ貯留物。
膵仮性嚢胞(pncreatic psudocyst)
膵外に存在し、明瞭な炎症性の壁により被包化された液体貯留。通常、浮腫性膵炎後の4週間以降に形成されます。慢性膵炎における主膵管や分枝膵管の破綻により起こるもので、急性膵炎後に起こることは稀とされています。
被包化壊死(walled-off necrosis)
炎症性の壁により被包化された境界明瞭な膵および膵周囲壊死の貯留物。通常壊死性膵炎後4週間以降に形成されます。内容物の多くは完全に被包化された不均一な液体成分と非液体成分が混在する貯留物とされています。
予後
急性膵炎を発症した場合の死亡率は全体で2.1%、重症例では10.1%と高く、臓器不全と膵壊死が生じた場合は予後不良とされています。
再発率は成因や治療の有無により異なっています。
アルコール性の場合は約半数に再発を認め、胆石性の場合は適切な治療後がなされない場合は30~60%で再発するといわれています。
急性膵炎後には3~15%が慢性膵炎に移行するとされています。
検査
急性膵炎の診断基準は下の3項目のうち2項目をみたし、他の膵疾患や急性腹症を除外したものとされています。
急性膵炎診断基準
- 上腹部に急性腹痛発作と圧痛がある。
- 血中または尿中に膵酵素の上昇がある。
- エコー、CT、MRで膵に急性膵炎に伴う異常所見がある。
臨床的な症状とともに、血液検査では血清リパーゼ、アミラーゼの値が重要とされています。ほかにはp型アミラーゼ、エラスターゼも鑑別で用いられています。
画像検査ではエコー、CT、MRが重要とされており、精査では造影CTや造影MR、MRCPが行われています。
エコー像
代表的な超音波所見
急性膵炎の代表的なエコー像は膵臓の腫大像と膵実質エコーの低輝度化です。
胸腹水や膵臓周囲の液体貯留、膵実質に仮性嚢胞を形成することもあるので見逃すことのないようにしたいところです。
ここから先は急性膵炎と診断された像と急性膵炎と類似した像を提示します。
膵臓は腫大(体部径28㎜)していることがわかります。
内部エコーは脂肪が沈着しているためか高輝度化しており、主膵管の拡張像は認めていません。膵臓周囲に液体貯留や仮性嚢胞を疑うエコー像は認めていませんでした。胆嚢の壁肥厚は軽度です。
積極的に急性膵炎を疑うエコー像には乏しいですが、身体所見より心窩部から右季肋部の圧痛、筋性防御を認めており、血液検査の結果、血清アミラーゼ・リパーゼの著明な上昇を認めました。
アルコールによる急性浮腫性膵炎として加療されました。
膵臓は腫大しており、膵体尾部の周囲には液体貯留を疑う低エコー域を認めました。
尾部には5cm程度の被膜を有する液体貯留が存在しています。
精査の結果、胆石を疑う像はなく、アルコール多飲もなかったため、原因不明の急性膵炎とされました。
膵臓はびまん性に腫大しており、内部エコーは均一に低輝度化しています。
主膵管は体尾部で拡張しており、頭部領域に腫瘤様のエコーを認めます。
総胆管は拡張しており、内部に胆泥を認めます。
精査の結果、膵頭部に腫瘤は存在しておらず、腫大した膵実質であることがわかりました。
精査の結果、IgG4高値とびまん性膵腫大から自己免疫性膵炎が疑われ、組織診の結果、AIPで確診となりました。
急性膵炎に特徴的なエコー像を呈していましたので、鑑別のためには他の検査と組み合わせて評価する必要がありました。
参考資料
おわりに
急性膵炎の背景、原因、局所合併症、予後、検査、エコー像についてまとめました。
急性膵炎の代表的なエコー像である膵臓の腫大像と膵実質エコーの低輝度化はもとより、膵周囲の液体貯留も重要な所見となります。
心窩部痛がある場合は、急性膵炎を示唆する所見を見逃さないように努めることが重要です。
消化管ガスにより膵臓が見えにくい場合は、ガスが移動するまで少し時間を空けてから再度評価することも考慮下さい。
閲覧いただきありがとうございました。