うっ血肝とは
心臓(とくに右心系)の機能低下による血液循環不全に伴い、肝臓に血液がうっ滞してしまう状態を指します。肝臓は腫大するとともに、低酸素の状態に陥ってしまうため、肝障害が生じます。
原因
肝臓には体循環の血液量の4分の1(1リットル)相当という大量の血液が流入します。
心不全(とくに右心不全)になると、心臓に流入する静脈血が停滞するため、肝静脈から下大静脈に流出する血液も停滞してしまいます。このとき右房圧・肝静脈圧が上昇するため、肝静脈の拡張がみられます。
心不全の場合は上記と同時に体循環する血液量が減少するため、肝臓への酸素供給が低下します。これにより肝細胞は低酸素状態に陥り、肝障害(肝逸脱酵素上昇)が生じます。
症状
うっ血肝になると、肝臓の腫大と肝機能障害を起こします。
うっ血肝の原因は心不全であることが多いので、心不全の症状が同時に出現します。
心不全の症状としては、呼吸困難、息切れや下肢のむくみ、頚静脈の怒張が挙げられます。
肝障害が慢性的に続くと、最終的には肝硬変へと至りますので、適切な処置が必要となります。
検査
血液検査では肝機能障害を反映してASTやALTの上昇を認めます。同時に心不全を反映してAST優位の逸脱酵素の上昇、慢性期ではアルカリホスファターゼの高値が見られます。
画像検査では腹部エコーや心エコー、CTが行われる場合もあります。
心不全のある方で肝機能異常があるとうっ血肝が疑われます。
血液検査と画像検査を組み合わせると比較的容易に診断可能です。
エコー像
代表的な所見としては、下大静脈の拡大+呼吸性変動の減弱、肝静脈の拡大です。
右肝静脈、中肝静脈、左肝静脈の分枝まで拡張しているエコー画像があれば、うっ血肝の可能性が高くなります。
日常検査では、心窩部からちらっと見える心臓が不全状態になっていないかを確認するとともに、下大静脈の拡大の有無をいつも確認する癖をつけておくと見逃すことはないですね。
ここから先はうっ血肝のエコー像を提示します。
①
この画像からは門脈(Portal Vein)と下大静脈(IVC)が拡大していることがわかります。
IVCの拡大とともに肝静脈(Hepatic Vein)の拡大も見られます。
こちらも同様です。
IVCは拡大しており、呼吸性変動は減弱しています。IVC径は呼/吸=23/19㎜でした。
IVCは20㎜を超えてくると拡大とします。
この症例では心不全を認めましたが、右心系の拡大は認めていませんでした。
②
IVCは拡大しており、呼吸性変動は減弱しています。IVC径は呼/吸=23/20㎜でした。
IVCの拡大とともに肝静脈(Hepatic Vein)の拡大も見られます。
この症例では心不全に伴い胸水も出現していました。
肝静脈の径が何センチ拡大しているとうっ血肝と考えてよいか、という明確な基準はありません。心不全状態で肝機能異常をきたしており、画像検査で下大静脈・肝静脈の拡大が見られればうっ血肝を疑ってよいと思われますが、心不全治療に伴う薬剤性肝障害の可能性も否定できないため、総合的な評価が必要とされます。
参考資料
おわりに
うっ血肝の原因、症状、検査、エコー像についてまとめました。
臨床症状と血液検査、画像検査を組み合わせて診断される疾患になるため、エコーでは特徴的な所見を見落とさないようにする必要があります。
下大静脈の径、呼吸性変動に関しては血管内水分量を反映するため、常日頃から気にかけておくことが重要です。
閲覧いただきありがとうございました。