背景
肝臓に発生する悪性腫瘍は大きく2つに分けられます。
ひとつが原発性肝癌、もうひとつが転移性肝癌です。
ここでは原発性肝癌のうち約95%を占める肝細胞癌に関して記載しました。
肝細胞癌はC型肝炎ウイルス(HCV)やB型肝炎ウイルス(HBV)が原因であることが多く、慢性肝炎や肝硬変といった背景肝で生じやすい疾患となっています。
本邦においては、1975年頃から肝細胞癌の発生数は急激に増加しています。これは上記ウイルスに感染した後、長期罹患している患者が増加したことによると思われます。現在では感染予防が行われていますが、前時代においては輸血製剤や注射針の使いまわしなどのウイルス感染に対する対策が不十分であったことが原因として挙げられます。
原因
前述のとおり大半がウイルス感染による発症だが、近年では非アルコール性肝炎(NASH)やアルコール性肝炎(ASH)などを背景とした肝細胞癌も増加しつつあります。
肝細胞癌全体のうち、HCV陽性者は70~80%、HBV陽性者は15~20%、NASH,ASHが数%とされています。
HCVによるものは感染後に対策なしの場合は慢性肝炎、肝硬変と経過し、感染後30年を経て肝細胞癌発症へと進展していくものが多いといわれており、平均発症年齢は65~70歳とされています。
HBVは母子感染によるものが多いため、無治療の場合ではHCV感染と同様の経過を経て、55歳前後に発症するとされています。
リスク因子としてはウイルス感染、アルコール多飲、男性、高齢、喫煙などが挙げられます。
血液検査でウイルス感染の有無をチェックするのが最重要です
特徴
多段階発癌
肝細胞癌は、硬変肝となった状態から徐々に移行して発生することになるため多段階発癌と呼ばれています。
通常の肝臓は門脈血流優位ですが、硬変肝になるに従い動脈血流優位となっていきます。肝細胞癌においても栄養経路は動脈血流優位となります。
多中心性発癌
慢性肝炎化した肝細胞は炎症と再生を繰り返して徐々に線維化が進みます。
この過程で肝細胞癌が肝臓内に発生することになりますが、発生する場所と時期は症例によって様々となります。この発癌の仕方を多中心性発癌と呼びます。
検査
肝細胞癌の大多数はウイルス感染者となるため、肝炎ウイルスの評価は必須となります。
さらに近年ではNASH,ASHによる発癌も認められるため、血液検査による定期的な肝機能の評価も必要となります。
腫瘍マーカーとしてはAFPとPIVKA-Ⅱが代表的です。
画像診断としては定期的なエコー検査が必須となり、腫瘤が疑われた場合は造影CT、造影MRによる精査が必要となってきます。
エコー評価の際は、肝臓内に存在している腫瘤を
確実に探し当て、拾い上げることが最重要となります!
早期発見、早期治療を目指したいところです。
病理像
背景には肝硬変か慢性肝疾患を認めることが多いとされています。
腫瘤は出血、変性、壊死などの状態を伴っていることが多く、見た目の色調は様々です。
肉眼的には塊状型、結節型、びまん型と3つの型に分類されます。塊状型は肝細胞との境界不明瞭な腫瘤が粗大に存在しているもの、結節型は境界明瞭な腫瘤が単発あるいは複数存在しているもの、びまん型は小さな腫瘤が無数に存在しているものを指します。
腫瘤は肝臓に存在する血管内、胆管内に増殖、伸展する傾向にあり、腫瘍塞栓や閉塞性黄疸などをきたします。
細胞異型の程度により高分化、中分化、低分化、未分化に分けられます。高分化ほど細胞異型が弱く、未分化ほど細胞異型が強いです。
高分化型は腫瘤径10㎜程度が多く、早期癌として分類されることもあります。
細胞学的にみると、高分化から未分化になるに従って腫瘍細胞の結合性が乏しくなり、散在性の形態をとることになります。
エコー像
代表的な超音波所見
肝細胞癌は内部が低エコーな腫瘤であったり、高エコーな腫瘤であったりと様々な見た目を呈します。一般的に均一な腫瘤であれば、高分化型の肝細胞癌であると考えられます。より低分化になるほど、内部エコーは不均一となります。
ここでは、肝細胞癌に特徴的な所見を列挙しました。
・辺縁低エコー帯
肝細胞癌の約60%は腫瘍周囲に線維性被膜が存在しています。
線維性被膜と正常な肝細胞との境界は明瞭であり、エコーで特徴的な像として描出されます。
エコー像では被膜部分が低エコーを呈することが多く、haloとも呼ばれています。辺縁低エ
コー帯が認められる場合、超音波の特性上、側方陰影(lateral shadow)を伴うことが多いで
す。
・後方エコー増強
超音波は組織を通過する際に反射が起こるほど減衰が激しくなります。
つまり均一な組織を通過するほど減衰せず、不均一な組織を通過するほど減衰します。
分化度が同様な細胞で形成される腫瘤(ex.肝細胞癌)では内部組織が均一であることが多く、
音波の減衰が周囲組織と比較して少ないことが知られています。
これが原因となり、(プローブからみて)腫瘤の後方のエコーが増強することが多くなります。
・モザイクパターン・内部エコーの不均一化(nodule in nodule)
腫瘍を構成する細胞の分化度が異なる場合、モザイク模様のようなエコー像となり内部エコー
が不均一化する。高低様々なエコー像が混在するパターンであるが、混在する領域それぞれの
境界は明瞭であり、境界部の線椎性被膜が隔壁として描出されることもある。
基本的に分化度の低い組織ほど腫瘤の内側に、高分化な組織ほど外側に存在します。
・肝臓表面への突出(hump sign)
肝細胞癌はある程度の硬さを有する結節を形成します。
これらの結節が肝表面近くに存在している場合、限局性に肝臓表面から隆起しているように見
えたり、突出しているように見えたりします。
慢性肝炎や肝硬変の場合では、肝表面が鈍化してhump signのように見える場合があるため、
突出象を認める場合は結節の有無を確認することが必要となります。
・門脈腫瘍塞栓
肝細胞癌は血管内に侵入して増殖、伸展する傾向が強く、肝内外の門脈や静脈に腫瘍塞栓を伴
うことが散見されます。ドプラ法を用いて門脈血流や静脈血流の欠損の有無を確認することも
鑑別に役立つかもしれません。
ここから先は「病理検査にて肝細胞癌と診断されたエコー像」と、「肝細胞癌以外の腫瘤」と診断された像とを織り交ぜて提示します。
肝表近くに存在する腫瘤です。体表から近いので高周波プローブを用いて描出しています。
背景肝の内部エコーはやや粗い印象です。
腫瘤の大きさは3cm大、境界明瞭、輪郭やや不整、haloを伴う内部不均一な高エコー腫瘤です。特徴的な所見としては辺縁低エコー帯と後方エコー増強、内部エコーの不均一像が挙げられます。中分化型から低分化型の腫瘍の可能性ありといったところでしょうか。
病理検査の結果、hepatocellular carcinoma, well differentiatedであることがわかりました。
Bmodeの見た目から分化度を評価するのは難しいと考えさせられる症例です。
胆嚢近傍に存在する腫瘤です。
背景肝の内部エコーは粗造化しています。
低周波プローブで描出している左の画像ではわかりづらいですが、高周波プローブで描出している右2つの画像では腫瘤の存在が確かにわかります。環境に合わせて機械操作を行い、診断に値する画像を残していきたいものです。
大きさは3cm大、境界やや不明瞭、輪郭やや不整、haloがやや不鮮明な内部不均一な等エコー腫瘤です。さらに胆嚢壁をやや圧排しているようにみえます。
病理検査の結果、hepatocellular carcinoma, moderately differentiated であることがわかりました。
横隔膜下に存在する腫瘤です。
背景肝の内部エコーはやや増強していますが、粗くはみえません。
腫瘤は肺のガスに隠れて約半分が見えていない状態ですが、これがルーチンのエコー検査の限界でしょうか。全体像の観察はCTやMRで評価願いたいところです。
左が低周波プローブ、右が高周波プローブを用いた画像になります。
大きさは3cm大、境界明瞭、輪郭整、内部やや低エコーやや不均一な腫瘤が描出されています。内部血流は乏しいようです。特徴的な所見としては辺縁低エコー帯と側方陰影が挙げられます。
病理検査の結果、hepatocellular carcinoma, moderately differentiated であることがわかりました。
左葉外側区に存在する腫瘤です。
背景肝は脂肪肝のようです。
腫瘤の大きさは1㎝大、境界明瞭、輪郭整、内部低エコー均一な腫瘤が描出されています。
こちらの腫瘤は病理検査の結果、Tubular adenocarcinoma, metastatic from the rectumであることがわかりました。
単発性であり、原発性なのか転移性なのかBmode像から判断するのは難しい症例でした。
肝表に存在する腫瘤です。左が低周波プローブ、右が高周波プローブを用いて描出しています。
背景肝は脂肪肝のようです。
腫瘤の大きさ1㎝大、境界明瞭、輪郭整、内部低エコー均一、動脈血流(+)な腫瘤が確認できます。左の画像のみでは嚢胞と勘違いしてしまいそうです。右の画像を見ても、肝血管腫やその他の肝腫瘤との鑑別が難しい腫瘤像になるので、質的評価には造影検査が必要となります。
こちらは経過観察の結果、嚢胞内出血の症例であることがわかりました。
腫瘤内にドプラシグナルが写っているのはプローブの厚みによる影響かもしれません。
肝表近くに存在する腫瘤です。体表から近いので高周波プローブを用いて描出しています。
背景肝の内部エコーはやや粗造化しています。
腫瘤の大きさ1㎝大、境界明瞭、輪郭整、内部低エコー均一な腫瘤が確認できます。特徴的な所見としては辺縁低エコー帯と側方陰影、後方増強、hump signが描出されています。高分化型腫瘍を疑う所見です。
病理検査の結果、hepatocellular carcinoma, well differentiatedであることがわかりました。
左葉外側区の腫瘤です。左上のみ低周波プローブ、他の画像は高周波プローブを用いています。
背景肝は硬変肝といってよい像かと考えます。
低周波プローブではわかりずらいですが、腫瘤の大きさ1㎝大、境界明瞭、輪郭整、内部低エコー均一、内部に動脈血流(+)な腫瘤が確認できます。
病理検査の結果、 hepatocellular carcinoma, well(to moderately) differentiated であることがわかりました。
肝表近くに存在する腫瘤です。
背景肝は硬変肝でよいかと思われます。
腫瘤の大きさは3cm大、境界明瞭、輪郭整、内部低エコー均一な腫瘤が描出されています。内部血流は乏しいようです。特徴的な所見としてはhump signが挙げられます。
病理検査の結果、hepatocellular carcinoma, well differentiatedであることがわかりました。
左の画像は左葉外側区、右の画像は右葉を描出しています。
背景肝は硬変肝です。
左葉外側区には高エコー均一な腫瘤が、右葉には内部不均一な粗大な腫瘍が存在しています。
粗大な腫瘍は門脈を圧排しており、細い門脈枝や静脈に浸潤している可能性が高そうです。
病理検査の結果、hepatocellular carcinoma, well differentiatedであることがわかりました。
左の画像は低周波プローブを、右の画像は高周波プローブを用いて描出しています。
体表から腫瘤までの距離がある程度存在する場合においても、皮下脂肪層が薄い症例の場合は積極的に高周波プローブを用いたほうがより良い画像が得られます。
背景肝の内部エコーはほぼ正常像であるように見えます。
腫瘤の大きさ1-2cm、境界明瞭、輪郭整、内部高エコー均一な腫瘤が描出されます。肝血管腫との鑑別が難しい腫瘤像になるので、質的評価には造影検査が必要となります。
経過をみることで増大していく可能性があるため、正確な大きさを測定するように心掛けたほうがよいでしょう。出来得る限り腫瘤を拡大した画像を大きさの測定に使用します。
病理検査の結果、hepatocellular carcinoma, well differentiatedであることがわかりました。
右葉の腎臓近くに存在する腫瘤です。
背景肝は硬変肝です。
腫瘤の大きさ2cm、境界明瞭、輪郭不整、内部高エコー均一な乏血性腫瘤が描出されています。
存在する腫瘍を見落とすことがないように、肝臓の隅から隅まで描出する癖を常日頃からつけておくべきでしょう。
病理検査の結果、hepatocellular carcinoma, well differentiatedであることがわかりました。
参考資料
肝癌診療ガイドライン 診断およびサーベイランス
まとめ
ここでは肝細胞癌の背景、原因、特徴、検査法、病理像、エコー像についてまとめました。
特にエコー像に関しては肝腫瘤の画像とともに観察するときの注意点なども記載しておりますので、参考にしていただきたいと思います。
見逃しのない検査を施行したいですね。
閲覧いただきありがとうございました。
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