背景
肝臓に発生する悪性腫瘍は大きく2つに分けられます。
ひとつが転移性肝癌、もうひとつが原発性肝癌です。
原発性肝癌のうち約95%を占める肝細胞癌についてはこちらに記載しているのでご覧ください。
転移性肝癌とは肝臓以外に発生した悪性腫瘍が肝臓に転移したものを指します。
転移性肝癌は原発性肝癌の約20倍の頻度とされており、臨床的に比較的遭遇する場面の多い疾患といえます。
近年の化学療法や肝切除の進歩と普及、安全性の向上により、一部の転移性肝癌では根治可能であったり、有意な延命効果が認められることがわかってきています。
原因
肝臓は動脈と門脈の血流支配を受けており、癌の血行性転移を来しやすいとされています。
特に大腸癌、胃癌、膵癌、胆道癌などからの転移が多いです。
消化器癌以外の原発巣としては神経内分泌腫瘍、悪性リンパ腫、GIST、乳癌、肺癌、腎癌、子宮癌、卵巣癌などが挙げられます。
特徴
転移性肝癌は、原発巣の病理学的特徴を反映することが多いとされています。
胃癌や大腸癌などの消化器系腺癌の肝転移の多くは、血流の少ない乏血性腫瘍とされています。
一方、腎細胞癌や平滑筋肉腫などは多血性の肝転移を生じるとされています。
検査
転移性肝癌の診断には、原発性肝癌との鑑別が必要となります。
そのため腫瘍マーカーの測定と各種画像検査が実施されます。
慢性肝疾患があり、かつAFPなどの腫瘍マーカーが上昇していれば、原発性肝癌(肝細胞癌)が疑われます。
画像検査としては、US、造影CT、造影MRが行われます。
肝転移以外の遠隔転移を評価し、治療方針を決定するためにはPET検査が必要となる場合があります。
エコー像
代表的な超音波所見
転移性肝癌は発見されたときには、大きさの等しい腫瘤が複数存在していることが多いです。
腫瘤が小さなとき(1cm以下)の内部は低エコー均一であることが多く、ある程度の大きさ(1-3cm)になると内部は不均一になる傾向にあります。
消化管からの転移や粘液産生性の場合は高エコーな像を呈する場合があり、原発巣が乳頭状に発育する腺癌からの転移では、腫瘤内部に高輝度の石灰化像を認める場合もあります。
つまり、転移性肝癌は多彩なエコー像を呈するものであると理解しておく必要があります。
ここでは、転移性肝癌に特徴的な所見を列挙しました。
腫瘤周囲の低エコー帯(halo)
肝細胞癌と同様に、転移性肝癌においても腫瘤周囲の低エコー帯がみられます。
両者の違いとしては、転移性肝癌のほうが比較的厚い低エコー帯を認めることが多いとされています。
ブルズアイサイン(bull’s eye sign)
haloが存在したうえで、腫瘤の中心部に実質エコーを認める場合に呼ばれます。
牛の眼のような画像が得られることが起因のようです。
クラスターサイン(cluster sign)
転移性肝癌が複数存在し、まるで腫瘤のようには描出されず、単に肝臓実質が粗くなったように観察されるものを指します。
腫瘤内部の無エコー
腫瘤が大きくなると、中心部が壊死を起こして無エコーを呈することがあります。
腫瘤の突出(hump sign)
腫瘤が肝臓表面から突出することを指します。肝細胞癌でも同様にみられます。
癌臍(umbilication)
hump signの突出部分に凹みが観察されることがあり、このへこんでいる部分を癌臍といいます。
転移性肝癌の特徴とされていますが、胆管細胞癌でも観察される場合もあります。
ここから先は転移性肝癌と診断されたエコー像を提示します。
食道癌または胃癌からの転移です。
肝右葉に5cm程度の粗大な充実性腫瘤が複数個存在していることがわかります。
腫瘤の辺縁には低エコー帯を認め、内部エコーは不均一な像を呈しています。
S状結腸癌からの肝転移です。
肝右葉に径5cm程度の腫瘤が存在しています。
境界はやや不明瞭で輪郭はやや不整な像を呈しています。
内部エコーは不均一で、一部に石灰化を認めています。
横行結腸癌からの肝転移です。
肝左葉に大きさ3cm以上の複数の腫瘤を認めます。
境界明瞭、輪郭整、内部エコーは不均一な像を呈しています。
胆嚢癌からの肝転移です。
肝右葉に径4cm程度の腫瘤を1つ認めます。
輪郭は不整で、内部エコーは不均一、内部に比較的豊富な血流シグナルを認めています。
肺腺癌からの肝転移です。
肝左葉に3cm程度の腫瘤を認めます。
境界明瞭、輪郭整、内部は低輝度均一な像を呈しています。内部に豊富な動脈血流を認めました。
前立腺癌からの肝転移です。
肝右葉に複数の充実性腫瘤を認めます。特に高周波プローブを使うと鮮明に見えます。
腫瘤はいずれも1cm程度であり、低輝度均一なものやhaloを伴う等輝度なものなど多彩なエコー像を呈しています。
神経内分泌癌からの肝転移です。
肝右葉に1cm程度の腫瘤を認めます。
境界はやや不明瞭で、内部は高エコー不均一な像を呈しています。血流シグナルは認めません。
S状結腸癌の肝転移です。
肝右葉に複数の充実性腫瘤を認めます。
低周波プローブでの画像では、腫瘤の辺縁にやや厚めの低エコー帯がみられます。
神経内分泌癌からの肝転移です。
肝右葉に多数の充実性腫瘤を認めます。
いずれもhaloを伴う等輝度腫瘤です。一部はhump signやcluster様にみえる部分もありますが、はっきりしません。
直腸癌の肝転移です。
肝右葉の表面に充実性腫瘤を1つ認めます。
径10mm程度の小さな腫瘤ですが、辺縁低エコー帯は厚くみられます。
参考資料
各種癌治療ガイドライン
おわりに
ここでは転移性肝癌の背景、原因、特徴、検査法、エコー像についてまとめました。
転移性肝癌は原発巣により多彩な腫瘤像を呈します。多発しておらず、ひとつの腫瘤しか描出されない場合もあります。
転移性肝癌に特徴的なエコー像を理解しつつも、それに捉われず、他の検査結果も考慮にいれた報告を心掛けたいですね。
閲覧いただきありがとうございました。