背景
腎臓に発生する悪性腫瘍としては腎細胞癌が大多数を占めています。
その中でも淡明細胞癌が約80%と最多となっています。他には多房嚢胞性腎細胞癌や乳頭状腎細胞癌、嫌色素性腎細胞癌、集合管癌などがみられます。淡明細胞癌に次いで頻度が高いのは乳頭状腎細胞癌です。
一方、腎臓に発生する良性腫瘍としては血管筋脂肪腫が挙げられます。
ルーチンのエコーで度々みかけますよね。
腎細胞癌の発症数は10万人に約6人といわれています。癌全体の約1%を占めており、男性に多い傾向にあります。50歳ごろから発症する方が増えはじめ、高齢になるほど発症率が高くなります。
原因
腎細胞癌の発生する要因としては肥満と喫煙が挙げられます。
また、腎細胞癌の発症と関連する疾患として、遺伝子疾患として知られているVon Hippel-Lindau病や後天性嚢胞腎が挙げられます。
予防としては適度な運動と節度のある飲酒、バランスの良い食事、禁煙が効果的であると考えられます。
特徴
腎細胞癌が発症した場合、多くは無症状であるといわれていますが、なかには肉眼的血尿や腫瘤触知、疼痛などの症状が出現する場合もあります。
しかしながら、腎細胞癌に特異的な症状はありません。
そのため、定期的な画像検査が腎細胞癌の早期発見に寄与すると考えられます。
多くの腎細胞癌が単発性とされていますが、両側性の場合もあるため検査の際には注意深く観察する必要があります。一般的に境界明瞭な腫瘤を形成します。
検査
腎細胞癌は検診やそれに伴う精密検査などで偶発的に発見されることが多い疾患です。
そのため、腎細胞癌の診断で用いられる検査は画像検査(エコー、造影CT、MR)が大半を占めます。
画像検査にて診断がつかない場合は、針生検が行われ病理検査が行われます。
腎細胞癌の診断において、血液検査は全身状態や腎機能を評価する目的で行われます。
病理像
淡明細胞癌は肉眼的に淡黄色で、腫瘤の境界明瞭、出血・壊死を伴った背景を呈し、腎静脈内への浸潤が観られる場合があります。
腫瘍の核の大きさにより3段階に異型度分類がなされています。
エコー像
腎細胞癌に特徴的なエコー所見は存在していません。
ただし、病理所見から言えるとおり「周囲の腎実質と境界明瞭な充実性腫瘤」が腎臓から突出して存在している場合は、腎細胞癌が積極的に疑われます。
特に「腎皮質のエコー輝度とあまり変わらない、もしくは低輝度な充実性腫瘤」は悪性腫瘍が疑われます。また、「内部エコーが不均一な腫瘤」も悪性腫瘍を否定できません。造影CTやMRによる質的評価の施行が望まれます。
一方、境界明瞭な高エコー均一な腫瘤は、良性腫瘍である血管筋脂肪腫の可能性が高くなります。経時的に大きさの推移を評価する必要がありますので、正確な腫瘍径測定が望まれます。また、血管筋脂肪腫の場合は血流シグナルが乏しい場合が多いです。
ここから先は「病理検査にて腎細胞癌と診断されたエコー像」を提示します。
右腎上極の腎皮質に存在する腫瘤です。
腎臓の腫瘤は体表から近い位置で描出できるため、高周波プローブを用いて描出することが可能になります。上が低周波プローブ、下が高周波プローブを用いた画像です。
腫瘤の大きさは20㎜大、境界明瞭、輪郭整、内部エコーは腎皮質と等輝度で不均一、血流が非常に豊富な充実性腫瘤です。腎臓表面から突出して存在していることもわかります。
病理検査の結果、 Clear cell carcinoma であることがわかりました。
左腎下極に存在する腫瘤です。
上が低周波プローブ、下が高周波プローブを用いた画像です。
腫瘤の大きさは30㎜大、境界明瞭、輪郭整、内部エコーは腎皮質と等輝度で均一、血流シグナルを認める充実性腫瘤です。この腫瘤も腎臓表面から突出して存在していることがわかります。
病理検査の結果、 Clear cell carcinoma であることがわかりました。
こちらは画像が1枚なため情報が少ないですが、大きさ20㎜大、境界明瞭、輪郭整、内部低輝度均一な腫瘤が腎臓表面から突出して存在しているように見えます。
こちらの腫瘤は他のモダリティによる精密検査の結果、充実性腫瘍ではなく、単に腎皮質が突出している像であることがわかりました。
Bmode像のみでは確実な評価はできないため、複数の画像検査を組み合わせた評価を行いたいですね。
左腎下極に存在する腫瘤です。
上が低周波プローブ、下が高周波プローブを用いた画像です。
腫瘤の大きさは30㎜大、境界明瞭、輪郭整、内部エコーは腎皮質と比較してやや高輝度、内部に低エコー域を伴い、血流シグナルを豊富に認める充実性腫瘤です。
内部エコーが不均一なうえ、血流豊富な腫瘤であるため悪性を否定できません。
病理検査の結果、 Clear cell carcinoma であることがわかりました。
左腎の腎皮質に存在する腫瘤です。
上が低周波プローブ、下が高周波プローブを用いた画像です。
腫瘤の大きさは30㎜大、境界明瞭、輪郭整、内部は低輝度均一で、一部に石灰化を伴い、血流シグナルを豊富に認める充実性腫瘤です。
腎臓表面から突出して存在していることがわかります。
病理検査の結果、 Clear cell carcinoma であることがわかりました。
右腎下極に存在する腫瘤です。
上が低周波プローブ、下が高周波プローブを用いた画像です。
腫瘤の大きさは40㎜大、境界やや不明瞭、輪郭整、内部は低輝度均一で、一部に石灰化を伴い、血流シグナルを周囲に認める充実性腫瘤です。
カラードプラを用いると腫瘤と腎臓との境界が際立つため、腫瘤の有無を確かめる場合に効果的です。腫瘤内の血流の有無を評価するだけでなく、腫瘤の存在評価にもドプラシグナルは役に立ちます。
病理検査の結果、 Clear cell carcinoma であることがわかりました。
右腎の腎盂領域に存在する腫瘤です。
腫瘤の大きさは60㎜大、境界明瞭、輪郭整、内部低輝度均一な腫瘤が存在しています。
腫瘤の存在のためか、腎盂が拡張していることがわかります。
病理検査の結果、腎盂領域に存在していますが、尿路上皮癌ではなく淡明細胞癌(腎細胞癌)でした。
提示したいずれの腫瘤においても、パパっと腎臓を観察しただけでは見逃してしまう可能性があるため、常日頃から注意深く観察する癖を身に付けておきたいところです。
参考文献
まとめ
ここでは腎細胞癌の背景、原因、特徴、検査法、病理像、エコー像についてまとめました。
特にエコー像に関しては腎腫瘤の画像とともに観察するときの注意点なども記載しておりますので、参考にしていただきたいと思います。
見逃しのない検査を施行したいですね。
閲覧いただきありがとうございました。
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