G7は世界的な課題に対する共通の解決策について協議する場とされています。
ここ数年は、世界経済の強化と脱税対策、エイズ、結核、マラリアへの対策、最貧国の子どもたちの教育を支援してきました。2015年には、世界的なCO2排出を制限するパリ協定を議論しています。
G7のメンバーは、アメリカ、イギリス、日本、ドイツ、フランス、イタリア、カナダの7か国にEUの理事会議長を加えた8名となっています。
G7の主要議題は、平和と安全保障、テロ対策、開発、教育、保健、環境、気候変動の7つです。
2020年は新型コロナウイルス感染症拡大により、対面でのサミットは行われませんでした。
2019年に行われたG7 ビアリッツサミットの内容に関してはこちらを参照ください。
ここでは2021年6月11日~13日に行われたG7コーンウォール・サミットにおいて議論された内容に関して、外務省報告を中心とした文書を参考にまとめてみました。
2021 G7サミット – 英国大統領 (g7uk.org)
2021 G7コーンウォール・サミット|外務省 (mofa.go.jp)
G7 コーンウォールサミット
テーマは『Build Back Better(より良い回復)』
新型コロナウイルス感染症により生じた世界的な経済危機からの回復への道筋を見出すことが、主要な議題であることがわかります。
出席者
日本:菅総理
アメリカ:バイデン大統領
イギリス:ジョンソン首相(議長)
ドイツ:メルケル首相
フランス:マクロン大統領
イタリア:ドラギ首相
カナダ:トルドー首相
EU:ミシェル欧州理事会議長及びフォン・デア・ライエン欧州委員会委員長
招待:豪州、インド、大韓民国及び南アフリカの首脳
議事
6月11日(金曜日)
「新型コロナからのより良い回復」
6月12日(土曜日)
「より強靱な回復」、「外交政策」、「保健」
6月13日(日曜日)
「開かれた社会」、「気候変動・自然」
G7 コーンウォールサミット総論
G7コンウォールサミットでまず議論されたのは、やはり目下の課題である新型コロナウイルス感染症に関してでした。
感染拡大を抑え込むことはもちろん、将来を見据えた経済を復活させるために全世界的に民主的で開かれた経済支援を進めることで一致されています。
加えて新型コロナ対応を含む国際保健、気候・自然、開かれた社会に関する議論が行われています。
3日間の議論の総括として、下に挙げる各種文書が発出されました。詳細は外務省HPに存在します。
- G7首脳コミュニケ
- カービスベイ保健宣言
- G7 2030年自然協約
- 研究協約
- 開かれた社会声明
- 「COP26への道」
- 経済の強靭性に関するG7パネル「主要政策提言 及び 「コーンウォール・コンセンサス」
主要な文書であるG7首脳コミュニケは33ページにも及ぶ膨大な文章が記載されており、『より良い回復のためのグローバルな行動に向けた我々の共通のアジェンダ』が宣言されています。
G7 コーンウォールサミット各論
新型コロナからのより良い回復
世界的な感染症による影響は健康や保健、公衆衛生のみならず、経済に対して非常に大きなダメージを与えています。
このセッションでは「より良い回復」を達成するために、経済回復とジェンダー平等という観点から議論されています。
①経済回復
WTO改革を進め、多角的な貿易体制を推進していくことが重要であるとしたうえで、産業補助金を始めとする市場歪曲的な措置、デジタル保護主義、重要技術の窃取といった経済面での諸課題は、戦略的に取り組むことの必要性が強調されています。
②ジェンダー平等
教育のためのグローバル・パートナーシップ」にG7で27.5億ドルの支援を行うことが決まりました。
より強靱な回復(経済の強靭性に関するG7パネル主要政策提言を参照)
パンデミックから回復し、より強靭な経済を築くために4つの中心的テーマ、すなわち保健、貿易、気候及びデジタルの4つが重要であるとしています。
グローバルな保健対応における平等の改善
ワクチンの入手・配分・アクセスについての貿易慣行・資金調達のような行動を、世界的に平等に実現しなければならないとしたうえで、下記6つを提言しました。
●アクセスの不平等をもたらす国家間の購買力の不平等を回避すること。
●ワクチン・治療薬の緊急製造の規模を拡大するために知的財産保護のルールをよくすること。
●非伝染性疾病、抗菌薬耐性、メンタルヘルス、デジタル医療の提供といった機会に取り組むこと。
●WHOを強化し、適切な場合には他の疾病に対象を拡大すること。
●保健分野、保健イノベーションへの投資に対するインセンティブを増加させること。
●保健医療用品に対する研究、開発、生産及び公平なアクセスのための共同のプログラムを設立すること。
気候及び生物多様性の保護への投資の加速
CO2排出削減を加速させるための気候変動緩和及び適応に向けた投資を加速させなければならないとしています。
詳細は下記「気候変動・自然」と同様の内容です。
国際公共財にとって不可欠なサプライチェーンの強靭性の改善
重要な物品・サービスの流れを確保するために、各国政府のための政策協調の場を提供するため、「クリティカル・サプライ・フォーラム(CSF)」の設立を主導すべきであるとしました。
とりわけ、保健・重要鉱物・半導体の分野は極めて重要であると認識されており、早急な対応が求められています。
デジタル・ガバナンスの格差の縮減
データのガバナンス、グローバルな技術標準及び規範、サイバーセキュリティ協力に関するグローバルな協力を主導すべきであるとされました。
暗号技術やデジタル企業の納税に関しての議論も行われたようです。
ネット・ゼロ及び技術革命に向けて極めて重要な市場の脆弱性への対処
重要鉱物及び半導体の市場を多様化するため、常設のG7プラスの作業部会を設立すべきであるとされました。
台湾、韓国、インド及び豪州と共同に進めていくこととされました。
開かれた世界市場への信頼構築のための投資に焦点を当てた回復の擁護
世界的な投資や法人税・デジタル税に関して議論され、下記3つの提言が示されました。
●多国籍企業やデジタル企業に対する法人税の世界的な最低基準を策定すること
●この10年以降の期間、年間の投資額をパンデミック前の水準から対GDP比で2%分増加させ、力強い回復と成長の変革を支援するよう投資の質を改善するため、多国間課税収入によるものを含む、G7共同の目標を設定する提言を承認すること。今から2030年までの間、1年当たり約1兆米ドルの追加投資を行うことを意味する。
●責任ある企業行動、包摂性及びコミュニティへの前向きな影響を支援するために、「ESG(環境・社会・ガバナンス)」のアジェンダの中の「S(社会)」の部分を更に発展させること。
多角的貿易体制の抜本的な改革の牽引
開かれたルールに基づく貿易を支持するため、WTOの抜本的な改革に向けた共同のビジョンを策定し、これを開始するために諸加盟国と協働すべきであるとし、
パンデミック、所得及び富の不平等並びに気候危機の解決に貢献し、それにより市民の信頼をも獲得すべきであるとしています。
より強力な労働基準及びより包摂的な労働参加への支持
世界的なグローバルなサプライチェーンにおいて公平かつ公正な労働基準を促進し、職場における保健、安全及び尊厳を優先し、労働者に投資し、労働参加を増加・多様化させるために、官民両部門にわたる協調した行動をとるべきであるとしています。
外交政策
①中国
自由で公正な経済システムを損なう慣行について懸念を表明。恣意的で強制的な経済政策及び慣行に直面する中で、世界経済の強じん性を促進するためにG7で協力することを確認しました。
新疆ウイグル自治区や香港について、人権や基本的自由を尊重するよう呼びかけていくこととしました。
また、東シナ海及び南シナ海における状況を引き続き深刻に懸念し、現状を変更し、緊張を高めるあらゆる一方的な試みに強く反対すること、台湾海峡の平和と安定の重要性を強調するとともに、両岸問題の平和的解決を促すことで意見が一致されました。
②インド太平洋
自由で開かれた国際秩序を確立する上で、東南アジア諸国連合(ASEAN)と連携していくことが重要であり、G7各国がASEANの「インド太平洋に関するASEANアウトルック(ACIP)」を支持して具体的な協力を進めていくべきであるという意見がでました。
③ミャンマー
クーデター及び治安部隊による暴力を最も強い言葉で非難し、拘束された人々の即時解放を求めること。民主的に選出された政府の権力を回復し、アウン・サン・スー・チー国家最高顧問やウィン・ミン大統領を始めとする恣意的に拘束された人々を解放するよう求めることとしました。
④北朝鮮
完全な非核化と国連安全保障理事会決議に従った北朝鮮の違法な大量破壊兵器・弾道ミサイル計画の検証可能かつ不可逆的な放棄を求めることで一致しました。
保健
2022年にパンデミックを終結させるために、世界中の人口の少なくとも60%がワクチンを接種する必要があることを認識し、人命を救う活動を強化する方向性で一致しています。
G7として少なくとも8億7千万回分のワクチンを2022年にかけて現物供与することや、資金及び現物供与を通じて10億回分に相当する支援を行うことにコミットされています。
開かれた社会
以下、5つの提言に対して意見が一致されています。
①メディアの自由を擁護すること
②既存の国際法がサイバー空間にどのように適用されるかについての共通理解すること
③全ての国に対して、全ての個人を、信教や信条に関係なく法の下で平等に扱うよう促すこと
④民主主義を守るため「即応メカニズム」の意義を再確認し、取組みを進めていくこと
⑤恣意的拘束を行う主体に対抗するために協力すること
気候変動・自然
炭素排出に関する議論が多くを占めていました。
2050年までにネット・ゼロ目標(炭素排出削減)を達成するための努力を行い、各国がその目標に沿って2030年目標にすることが確認されました。
また、先進国のみが高い目標を掲げるだけでなく、他の大きな排出国(中国?)に更なる取組を求めていくとしたうえで、途上国に対しては、多様なエネルギー源・技術を活用しつつ、脱炭素社会に向けた現実的な移行を支援していくこととしました。
おわりに
G7 コンウォールサミットの内容をまとめました。
サミットのテーマは『Build Back Better(より良い回復)』ということで、新型コロナウイルス感染症からの回復という視点で多くの議論がなされています。
とりわけ「より強靱な回復」で議論された今後の経済発展への取り組みに関しては未来への投資に関して多くの提言がなされています。
保健、貿易、気候及びデジタルの4つには注目していきたいところです。
新型コロナに目を向けてみると、G7を中心とした先進国ではワクチン接種が進み、これから経済の回復が目下の課題として示されていますが、今後途上国では感染拡大が進むことになるかもしれません。
ワクチン需要は経時的に増えていく可能性があるため、G7を中心として確実な枠組みが策定され、1日でも早く世界が元通りに、そしてさらにより強靭に回復していくことが期待されます。